【サラリーマン奮闘記】第18話「サボりの罠」

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今週、オフィスに新たに導入されたのは、最新鋭の「スマート会議室システム」だった。
会議室の無断占有や“カラ予約”を防ぐため、室内に設置されたIoTセンサーが人の動きや人数、さらには会話の活発さまでを検知し、AIが「実際に会議が行われているか」をリアルタイムで判定するというものだ。その結果は全社カレンダーに即時反映され、誰でも閲覧できる仕組みになっている。

「……ついにここまで来たか」
マニュアルを読みながら、タケルは静かにため息をつく。

そんな高度なシステムの存在など露ほども知らない斎藤課長は、昨晩の深酒の影響で顔色が悪く、頭を押さえながら出社してきた。

「タケル……今日は無理だ……」
そう言うなり、周囲を見回して声を潜める。

「第3会議室、3時間押さえろ。“極秘会議”って入れておけ。誰も入ってこられないようにするんだ……俺はちょっと仮眠する」

堂々たる業務中昼寝宣言に、タケルの胃がキリキリと痛み出す。

(……極秘会議という名の昼寝……)

しかし反論はしない。いつものように無表情のままPCを開き、予約画面を操作する。
そのとき、画面の注意書きが目に入る。

『※AIセンサーが室内利用状況を解析し、全社カレンダーに自動公開されます』

タケルの指が一瞬止まる。

(……なるほど……“隠せない”仕組みか……)

静かに何かを理解したタケルは、そのまま指示通りに「A社向け極秘プロジェクト会議」と入力。さらに、システムの詳細設定画面を開き、【ステータス共有機能:ON】を選択し、迷いなく確定ボタンを押した。

「……これで準備完了ですね」

数分後。

第3会議室では、斎藤課長がソファに横たわり、豪快ないびきを響かせていた。
極秘どころか、完全に“無防備な睡眠”である。

一方その頃、フロア中央の大型モニターには、全社カレンダーが表示されていた。
そこに、ひときわ目立つ赤文字の警告が浮かび上がる。

『第3会議室』
『予定:極秘プロジェクト会議(予約者:斎藤課長)』
『AI解析:参加者1名/動きなし/活動状態【睡眠(サボり)】』
『※会議室の不正利用の疑い』

「……ほう」

その表示の前に立っていた部長の額に、青筋が浮かぶ。
隣には、タブレットを手にした総務のミユキ。

「人感センサーとサーモグラフィー解析の結果です。完全に“睡眠状態”と判定されていますね」

冷静すぎる説明が、逆に恐ろしい。

「……行くぞ」

低い声とともに、二人は会議室へと向かう。

次の瞬間――

「バンッ!!」

会議室のドアが勢いよく開かれ、静寂を破る怒号が響き渡る。

「斎藤ぉ!! これが“極秘会議”か!!」

飛び起きる課長。状況が理解できず、ただ目を白黒させる。

「な、なんだ!? 誰だ!?」

「AIだよ」

ミユキが淡々と告げる。

「会議内容、全部“見えてます”ので」

顔面蒼白になる斎藤課長。

「な、なんでそんなことまで……!」

その声は、もはや威厳のかけらもなかった。

一部始終を静かに見届けながら、タケルは席に戻る。

(……AIは、嘘をつかない)

そう心の中でつぶやきながら、いつものように胃薬を口に含む。

今日もまた、声には出さないが確かな手応え。

小さく、しかし確実な――

**「小さな勝利」**を噛みしめるのだった。