オリジナルWeb漫画:不屈な父親奮闘記シリーズ 第4話
仕事を終えた父は、その日一日を乗り切ったご褒美を胸に帰宅していた。
朝、冷蔵庫の奥にそっとしまっておいた――あのプリンである。
「今日は冷蔵庫のあのプリンを食べるぞ!」
朝からずっと楽しみにしていた小さな幸せ。
営業先で嫌なことがあっても、暑い中を歩き回っても、父の頭の中にはプリンの存在があった。
「帰ったら、冷たいプリンだ……」
そう思うだけで、疲れた体も少し軽くなる。
父にとって、それは一日の締めくくりの大切な楽しみだった。
家に着くなり、父はスーツ姿のまま冷蔵庫へ直行する。
そして勢いよく扉を開けた。
しかし――。
「あれ……?」
そこにあるはずのプリンが、見当たらない。
父は一瞬固まる。
そして慌てて冷蔵庫の中を見回す。
上の段。
下の段。
野菜室まで確認する。
「俺のプリンは……?」
だが、どこにもない。
代わりにあるのは、調味料と作り置きのおかずだけだった。
父の背中に、嫌な予感が走る。
その時、リビングから妻の声が聞こえた。
「あら? 何探してるの?」
父は恐る恐る尋ねる。
「えっと……冷蔵庫にあったプリン、知らない?」
すると妻は、あっさりと言った。
「ああ、それ?
もう食べちゃったわよ。」
父の時間が止まる。
「え……?」
思考が追いつかない。
あれほど楽しみにしていたプリンが、あまりにもあっさり消えていた。
「それ……俺が……」
父が言いかけると、妻は少し不思議そうな顔をする。
「え? そうだったの?
だって名前書いてなかったし。」
その言葉は、父の胸に深く突き刺さった。
名前を書いていなかった――
たったそれだけの理由で、父のささやかな楽しみは消えてしまったのである。
数分後。
部屋の隅で、父は静かに膝を抱えていた。
「……名前書いておけばよかった……」
小さくつぶやきながら、肩を落とす父。
その姿を横目に、家族はいつも通りの時間を過ごしている。
こうして父はまたひとつ、家庭内での自分の立場と現実を思い知らされるのだった。
だがこれは、父のささやかな幸せが次々と試される、
この家庭の日常のほんの一コマに過ぎない。
今日もまた、この家では――
父の小さな期待が、静かに試されているのである。


