【サラリーマン奮闘記】第2話「紙の塔とクラウドの逆襲」

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会社では最近、業務効率化の一環としてペーパーレス化が進んでいた。会議資料も見積書もすべてクラウド上で共有され、検索や更新も瞬時に行える。若手社員たちは当然のようにタブレットやノートPCで資料を確認し、必要な情報をその場で呼び出していた。

しかし、そんな流れに真っ向から逆らう人物がいた。
――斎藤課長である。

斎藤課長はモニターを睨みつけながら言う。

「画面じゃ頭に入らん!」

「俺の若い頃はな、書類の“重さ”が責任の重さだったんだ!」

そう言って、すべての資料を紙で出力させるのが彼の流儀だった。結果、被害を受けるのは部下のタケルである。

「タケル、これ全部印刷しておけ!」

「両面じゃなくて片面だ!読みづらい!」

「ホチキスは左上だぞ!」

気づけばタケルのデスクには、斎藤課長専用の資料が山のように積み上がっていた。社員たちはその異様な光景を密かにこう呼んでいた。

“紙の塔”。

そんなある日の午後、突然重役会議が開かれることになった。斎藤課長は得意げに分厚い資料の束を抱え、会議室へ向かう。

「やっぱり紙だ。これが安心感というものだ」

しかし数分後、斎藤課長が血相を変えて戻ってきた。

「おいタケル!」

「さっきの資料、一番重要なページがないぞ!」

「見積もり総額のページだ!」

会議開始まで残り3分

斎藤課長はタケルを睨みつける。

「お前が入れ忘れたんだろ!」

完全な責任転嫁だった。

タケルは一瞬目を閉じる。
だが次の瞬間、静かにノートPCを開いた。

「課長、ご安心ください」

「先日導入された共有クラウドに、すべて保存されています」

そして会議室のプロジェクターへ接続すると、スマートフォンで操作しながら言った。

「検索機能で該当ページを表示します」

数秒後、巨大なスクリーンに見積もり総額のページが映し出される。

会議室がざわついた。

「おお、便利だな」

「今の時代はこうでなくちゃ」

「紙より早いじゃないか」

重役たちから称賛の声が上がる。

斎藤課長は黙ったまま、額の汗をぬぐうしかなかった。

会議後。

斎藤課長は腕を組みながら言う。

「ふん……まあ今回は機械に頼ってやっただけだ」

「だがな」

「紙の温かみこそが信頼を生むんだ」

そう言い残して去っていく。

その背中を見送りながら、タケルは静かに思う。

(……その紙を失くしたのは誰なんですか)

そしてポケットから胃薬を取り出し、水で流し込む。

こうして今日も、タケルの小さなストレスと、小さな正義が静かに積み重なっていくのだった。