オリジナルWeb漫画:サラリーマン奮闘記シリーズ 第15話
今週、タケルは大型コンペに向けた重要な企画書作成に追われていた。
市場調査、競合分析、コスト試算、プレゼン構成――すべてを一から組み立て、連日の残業で積み上げた時間は優に数十時間。ようやく完成した企画書は、誰が見ても説得力のある“勝てる資料”だった。
今回から社内では「クラウド型ドキュメント管理システム」が導入され、複数人で同時編集や共有が可能になっている。タケルは完成したドラフトをシステムにアップし、課長へ報告する。
「課長、企画書のドラフトができました。ご確認お願いします」
すると斎藤課長は、例の笑みを浮かべて言った。
「おう、ご苦労! あとは俺が“最終調整”して、俺の名前で部長に出しておく」
その一言で、タケルはすべてを悟る。
――手柄泥棒だ。
課長はPCを開き、タケルの企画書を操作し始める。
しかしやっていることは極めて軽微だった。
タイトルのフォントサイズを少し拡大。
語尾を「~である」から「~です」に数カ所修正。
それだけで満足げにうなずく。
「よし、これで完璧だ!」
「ほぼ俺が書き直したようなもんだな!」
そしてそのまま、自分の名前で部長へ提出してしまうのだった。
タケルは何も言わない。
ただ、静かに画面を見つめる。
(……何十時間もかけたのに)
怒りと悔しさがこみ上げ、胃がきりきりと痛む。
そのとき、画面右上に小さく光るアイコンに目が留まる。
「変更履歴」
(……なるほど)
クラウドシステムは、すべての編集を記録している。
誰が、いつ、どこを、どれだけ変更したか。
タケルは無言でその履歴を開き、ログ画面を表示したままそっと席を離れた。
数時間後。
フロアに、部長の怒声が響く。
「斎藤!!」
全員の視線が集まる。
「お前、この企画書を“自分が徹夜で書き直した”と言ったな!?」
斎藤課長の顔が固まる。
その隣には、総務のミユキがタブレットを手に立っていた。
「変更履歴および作業ログを確認しました」
淡々とした声で続ける。
「全体の99.8%をタケルさんが作成」
「斎藤課長の作業時間は……2分です」
フロアが静まり返る。
「変更内容は、フォントサイズ調整と軽微な文言修正のみ」
完全な証拠だった。
「なっ……なんでそんなことまで分かるんだぁぁ!」
課長は崩れ落ちる。
部長は冷たく言い放つ。
「他人の成果を奪うのは、明確なコンプライアンス違反だ」
「お前はこのプロジェクトから外れる」
そして、タケルに向き直る。
「素晴らしい企画だ」
「この案件のリーダーは、お前に任せる」
その言葉に、タケルは一瞬言葉を失う。
後輩のショウも、目を輝かせて言う。
「先輩、すごいです……!」
崩れ落ちたままの課長を背に、タケルは自席へ戻る。
引き出しからいつもの胃薬を取り出し、水で流し込む。
胃の痛みはまだある。
だが今日は、確かに違った。
胸の奥に、静かな達成感が残っている。
――努力は、消えない。
そしてシステムは、それを裏切らない。
タケルは小さく息を吐きながら、心の中でつぶやいた。
(……これが、本当の勝利かもしれない)


