オリジナルWeb漫画:サラリーマン奮闘記シリーズ 第7話
先週、斎藤課長は立て続けに二つの大きな出費をしていた。
ひとつは例の強制飲み会で発生した12万8千円の自腹会計。
もうひとつは、社内サーバーの不具合を無理やり自分で触った結果、逆に壊してしまい発生した修理費だった。
その影響で、今月は極貧生活に突入したはずだった。
――少なくとも、部下たちはそう思っていた。
しかし月曜日の朝。
出社してきた斎藤課長を見て、フロアの空気が一瞬止まる。
そこに立っていた斎藤の頭には――
不自然なほどフサフサの黒髪。
しかも、ツヤツヤで若々しい。
先週までの頭頂部とは、まるで別人だった。
「おはよう!」
斎藤は胸を張って言う。
「やはり男は身だしなみが重要だな!」
部下たちは言葉を失う。
ショウは小声でつぶやく。
「……課長って、こんな髪ありましたっけ?」
タケルは無言でその頭を見つめる。
(借金があるのに……)
(なぜそっちにお金を使ったんですか……)
その“髪”はどう見ても不自然だった。
頭のサイズよりわずかに大きく、境目が妙に浮いている。
それでも斎藤本人は気づいていないのか、やたらと機嫌がいい。
「今日は大事な取引先との商談だ」
「若々しい印象で契約を勝ち取るぞ!」
どうやらそのための3万円の激安通販カツラらしい。
会議前、斎藤は窓の近くへ歩く。
「商談前は換気が大事だ」
そう言って窓を開ける。
外から気持ちのいい風が吹き込む。
斎藤は満足そうに目を閉じる。
「ふう……いい風だ」
その瞬間だった。
空から黒い影が急降下する。
「カァー!」
大きなカラスだった。
カラスは一直線に斎藤の頭へ向かう。
次の瞬間。
ガシッ!
鋭い爪が、斎藤の黒いモジャモジャを掴んだ。
カラスはそれを「巣の材料」か「小動物」と勘違いしたらしい。
斎藤が絶叫する。
「うわああああ!!」
「俺の3万円(通販・激安)がー!!」
次の瞬間――
カツラはカラスに引き抜かれ、空へと舞い上がる。
窓の外で、黒い毛の塊がヒラヒラと遠ざかっていく。
フロアは静まり返る。
残されたのは――
つるりと輝く頭頂部。
斎藤は両手で頭を押さえ、その場に崩れ落ちる。
「返せぇぇぇ……」
涙声で空を見上げる斎藤。
その時、会議室のドアが開く。
取引先の担当者が入ってきた。
目に入ったのは、窓際で泣き崩れる男。
そして、やけに光る頭頂部。
タケルは静かに目を閉じる。
(……商談、開始10秒で終了ですね)
ショウは必死に笑いをこらえていた。
こうして斎藤課長の若返り作戦は、
たった一羽のカラスによって、空高く連れ去られていったのだった。


