【フリーター奮闘記】テツヤ成り上がり|第28話|答えを出す時

フリーター奮闘記【テツヤの物語編】

【前回のあらすじ】

体験参加者として何度かセミナーやミーティングに参加してきたテツヤ。最初は「今の生活を変えたい」という思いから話を聞いていたが、参加を重ねるにつれ、小さな違和感が大きくなっていった。

ミーティングでは商品の魅力よりも「誰を紹介したか」という話題が中心で、さらに「友達を連れてきてほしい」と頼まれたことで、テツヤは戸惑いを覚える。

まだ正式に入会を決めていない自分が、誰かを誘う立場になることへの抵抗感。本当に納得していないものを、大切な人へ勧められるのだろうか。

帰宅後、ノートに「人を紹介することが目的?」「佐藤さんは気付いているのか?」と書き残したテツヤ。その疑問は、ついに無視できないほど大きくなっていた。

【今回の見どころ】

今回は、テツヤが初めて「自分の意思」で答えを出す回です。今まで流されることが多かった彼が、違和感をごまかさず、自分の価値観と向き合います。そして、親身になってくれた佐藤だからこそ断りづらいという葛藤の中で、自分自身の答えを見つけようとします。テツヤの成長が最も感じられる重要なエピソードです。

【本文】

数日後。

コンビニの休憩室。

テツヤは缶コーヒーを手に、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

夜の街は静かだった。

それとは対照的に、頭の中は整理がつかない。

「……まだ考えてる?」

佐藤が椅子に腰掛けながら声を掛けた。

「はい。」

テツヤは小さく頷く。

佐藤は笑顔のまま続ける。

「無理に急がなくてもいいよ。」

「でもさ。」

少しだけ真剣な表情になる。

「そろそろ入会するか決めてもいい頃かな。」

その一言に、テツヤは黙った。

(やっぱり来たか……。)

いつか聞かれると思っていた。

その時が来ただけだった。

「入会したら、もっと詳しく教えられるし。」

「一緒に頑張れる。」

佐藤は穏やかに話す。

押し付けるような口調ではない。

だからこそ断りづらかった。

休憩が終わっても、その言葉は頭から離れなかった。

帰宅後。

テツヤは机に向かった。

ノートを開く。

新しいページ。

ゆっくり書き始める。

「入会する理由」

ペンを動かす。

・収入が増えるかもしれない。

・人脈が広がるかもしれない。

・佐藤には世話になった。

書き終える。

次に書く。

「入会しない理由」

しばらく考えてから書き始めた。

・まだ仕組みを理解できていない。

・友達を誘いたいと思えない。

・自信を持って勧められない。

・違和感が消えない。

書き終えたノートを見つめる。

どちらが多いかではない。

どちらが、自分の本音なのか。

それを考えていた。

窓の外を見る。

静かな夜。

思い返す。

大学時代。

就職活動。

副業。

面接。

失敗。

少しずつ積み重ねてきた日々。

(俺……。)

あの頃とは違う。

昔なら、誰かに言われるまま決めていた。

楽そうだから。

断れないから。

そんな理由で流されていた。

でも今は違う。

(ちゃんと考えてる。)

答えは、もう出ていた。

翌日。

コンビニの休憩時間。

佐藤がやって来る。

「どう?」

「決まった?」

テツヤはゆっくり息を吸う。

少しだけ緊張する。

「……すみません。」

「今回は入会しません。」

静かな声だった。

佐藤は驚いた表情を見せる。

「そうなんだ。」

「理由、聞いてもいい?」

テツヤは少しだけ考えた。

「まだ、自分が納得できてないんです。」

「自分が納得できてないものを、人には勧められません。」

その言葉は自然に出てきた。

自分でも驚くくらい、迷いはなかった。

佐藤は少し黙る。

そして小さく笑った。

「そっか。」

「ちゃんと考えて決めたんだな。」

テツヤは頷く。

「はい。」

「なら、それでいいと思う。」

その言葉に、胸の力が抜けた。

怒られると思っていた。

責められると思っていた。

でも違った。

佐藤は最後に言った。

「ちゃんと自分で決めたなら、それが一番だから。」

帰り道。

夜風が心地いい。

スマホを取り出す。

グループチャットを開く。

少しだけ迷う。

そして静かに退出ボタンを押した。

画面には、

「グループを退出しました。」

その文字が表示される。

それを見て、ゆっくり息を吐く。

部屋に戻る。

ノートを開く。

最後に一行だけ書いた。

「流されず、自分で決めた。」

その文字を見つめながら、小さく笑う。

大きな成功ではない。

お金も増えていない。

生活も変わらない。

それでも――

今日の決断は、

今までで一番、自分らしい選択だった。

窓の外を見る。

夜空は静かだった。

しかしテツヤの心は、不思議なほど晴れていた。

【作者コメント】

今回のテーマは、「断る勇気」です。

断ることは、相手を否定することではありません。自分の価値観を大切にし、自分で選択することです。テツヤはこれまで、「忙しいから」「断りづらいから」「流れで」と、自分の意思を後回しにしてきました。しかし今回、初めて自分の本音と向き合い、自分で答えを出します。

この決断は派手ではありません。しかし、自分の人生を歩き始めるためには、とても大切な一歩です。次回からは、ネットワークビジネス編の結末と、その経験を糧に新しい未来へ進むテツヤの姿を描いていきます。