オリジナルWeb漫画:フリーター奮闘記シリーズ |テツヤの成り上がり|第27話
【前回のあらすじ】
佐藤に誘われ、何度かセミナーやミーティングへ参加してきたテツヤ。最初は「少しでも今の生活を変えたい」という思いから話を聞いていたが、回数を重ねるにつれ、少しずつ違和感を覚えるようになっていた。
参加者たちは皆、前向きで明るく、夢や成功について語っている。しかし、その一方で、商品やサービスについて詳しく話す人は少なく、「紹介」や「仲間」という言葉ばかりが耳に残るようになっていた。
それでも、これまで親身になって相談に乗ってくれた佐藤を信頼していたテツヤは、「自分が考えすぎているだけかもしれない」と迷い続けていた。
まだ入会はしていない。
だからこそ、最後の一歩を踏み出すべきなのか、それとも立ち止まるべきなのか、その答えを探していた。
【今回の見どころ】
今回は、テツヤが「紹介される側」から「紹介する側」という立場を初めて意識する重要な回です。まだ正式に入会していないにもかかわらず、「友達を紹介してみない?」という言葉を掛けられたことで、心の中にあった小さな違和感が大きな疑問へと変わっていきます。信頼している佐藤だからこそ断りづらいという葛藤と、自分の良心との間で揺れ動くテツヤの心理に注目してください。
【本文】
「紹介してみない?」
セミナーから帰った数日後。
テツヤは工場の休憩時間にスマホを見ていた。
佐藤に招待されたグループチャットには、今日も多くの投稿が流れている。
「今月も目標達成しました!」
「人生が変わりました!」
「新しい仲間が増えました!」
次々と流れてくる報告。
以前なら素直に「すごい」と思っていた。
だが最近は違う。
(本当に、みんなそんなにうまくいっているのかな……。)
そんな疑問が、少しずつ心の中で大きくなっていた。
その日の夜。
コンビニの休憩室。
佐藤が缶コーヒーを片手に笑顔で話しかけてくる。
「テツヤ、最近どう?」
「まあ、普通です。」
「そっか。」
少し笑ったあと、佐藤は声を落とした。
「実はさ。」
「今度またミーティングがあるんだけど。」
テツヤは顔を上げる。
「もし良かったらさ。」
「友達とか誘ってみない?」
その一言に、思わず言葉を失う。
「……友達ですか?」
「うん。」
「もちろん無理じゃなくていいんだけど。」
「話を聞くだけでも人生変わる人っているからさ。」
佐藤は本気だった。
悪気などまったくない。
だからこそ、テツヤは返事に困った。
(まだ俺、入会も決めてないのに……。)
胸の奥に、小さな違和感が走る。
今までは自分が説明を受ける立場だった。
でも今回は違う。
まだ正式に参加すると決めてもいない自分が、誰かを誘う話になっている。
帰宅後。
テツヤはノートを開く。
そして静かに書く。
「もし自分が誘うなら?」
ペンが止まる。
工場の同僚。
コンビニの知人。
大学時代の友人。
顔は浮かぶ。
だが、その誰にも声を掛ける自分を想像できなかった。
(本当に勧められるのか……?)
まだ自分自身が十分理解していない。
入会するかどうかも決められていない。
それなのに、人を誘う。
そのことに強い違和感を覚えた。
数日後。
再びミーティングへ体験参加する。
今回も参加者は十数人ほど。
発表が始まる。
「職場の先輩に話しました。」
「友達が興味を持ってくれました。」
「家族にも紹介しました。」
拍手が起こる。
話題の中心は、
商品でもない。
サービスでもない。
「誰に紹介したか」
だった。
テツヤは静かに周囲を見回した。
(あれ……。)
違和感が少しずつ形になっていく。
休憩時間。
一人でコーヒーを飲んでいると、一人の男性が近づいてきた。
四十代くらいだろうか。
何度か見かけたことのある人物だった。
「テツヤ君だよね?」
「はい。」
男性は優しく微笑む。
「まだ入会は迷ってるんだって?」
テツヤは少し驚いた。
「……はい。」
男性は穏やかに続ける。
「焦らなくていいよ。」
「でも、入会したら最初は身近な人に話してみるといい。」
「みんな、そこから始めてるから。」
その瞬間だった。
頭の中で何かがつながった。
今まで感じていた違和感。
息苦しさ。
断りづらい空気。
すべてが一本の線になる。
(やっぱり……。)
まだ入会していない自分に、
人を紹介する話が出る。
この集まりでは、
商品やサービス以上に、
「人を増やすこと」が重視されているのではないか。
そんな考えが頭をよぎる。
帰り道。
夜の街を歩く。
隣では佐藤が楽しそうに話している。
「今日どうだった?」
いつもの質問。
しかし今日は、すぐに答えられなかった。
期待ではない。
迷いでもない。
疑問だった。
部屋へ戻る。
ノートを開く。
しばらく考えたあと、静かに書く。
「まだ入会していないのに、人を紹介する話になる。」
さらに続ける。
「人を紹介することが目的?」
そして最後に、ゆっくり書き加えた。
「佐藤さんは気付いているのか。」
「それとも、本当に信じているのか。」
テツヤはペンを置く。
窓の外は静かな夜だった。
しかし、その静けさとは裏腹に、彼の中では小さな疑問が、確かな違和感へと変わり始めていた。
【作者コメント】
今回の第27話では、「まだ決断していない立場だからこそ見える違和感」を描きました。
テツヤは正式に入会したわけではありません。しかし、「友達を紹介してみない?」という一言をきっかけに、自分が本当に納得していないものを大切な人へ勧められるのかを真剣に考え始めます。
人は、当事者になることで初めて見える景色があります。受け身だったときには気付かなかった違和感も、自分が行動する立場になることで、少しずつ輪郭を持ち始めます。
今回の物語で描きたかったのは、ネットワークビジネスそのものの善悪ではなく、「自分の価値観で判断することの大切さ」です。
テツヤがこの小さな違和感とどう向き合い、どんな答えを出すのか。その決断まで、ぜひ見届けていただければ嬉しいです。


